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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「認知・脳」の記事一覧

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一年間の地図

ではこの種のテストで,時間の空間的可視化について何がわかるのだろう?マーク・プライスという研究者がノルウェーのベルゲン大学で,時間と空間の共感覚を持つ被験者に,1年の月がどう並んでいるか図を描かせた。その後,被験者をコンピューターの前に座らせ,1月から12月のどれかをランダムに画面に映し出す。このときは文字に色はついていなかった。被験者への指示は,ただ1年の前半の月に割り当てられたキーと,後半の月に割り当てられたキーを押すことだけだ。そこでプライスは次のようなことに気づいた。その人の頭の中にある1年の地図で3月が左上にあった場合,前半の月に割り当てられたキーが,キーボードの左側にあるときのほうが速く打てる。けれども前半の月のキーがN(右手側の隅)だと,打つのが遅くなる。地図のことは被験者には告げないし,理論的にはキーがどの位置にあっても同じスピードで反応するはずだ。けれども彼らはどうしても地図を思い浮かべてしまうため,自分の地図と一致するキーには速く反応できるのだ。

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.107
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時間処理のエネルギー量

イーグルマンの理論ならば,時計が止まっていると感じる錯覚も説明できる。最初のころの針の動きが遅く感じるのは,脳が秒針の動きを認識するのが初めてだからだ。その後,秒針が動くのを見続けるうちに,神経の発火や使われるエネルギーが減少して,時間が過ぎるという感覚も弱くなる。同じように,ぼんやりとした光より明るい光が点滅したときのほうが,長い時間,光っていたと感じるし,同じ時間でも,単純な曲よりも複雑で難しい曲が流れているときのほうが長く感じる。それは私たちが,時間を処理するためにどのくらいエネルギーを使ったかで,時間を計っているということだろうか?

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.80-81

3秒ごとに更新

作業記憶に関する数多くの古典的研究によって知られるようになったことだが,3秒という数字は,メモをしたり長期記憶にゆだねたりせずに,何かを記憶しておける時間である。つまり電話番号を聞いた直後なら,何もせずともその番号にすぐかけることができるが,他のことに気を取られたり(携帯電話で一度押し間違えて,最初からやり直そうとするだけでもじゅうぶん),あるいは3秒以上待ったりするだけで,かけるのが難しくなる。まるで脳の中が2,3,秒ごとに更新されていくようだ。
 脳の時間計測について重要な問題の1つは,頭の中の時計(1つでも複数でも)が,どのようにして違った時間枠を処理しているのかということだ。脳内の同じパルスが5分も100ミリ秒も計っているのだろうか?それともまったく違う時計が必要なのだろうか?もし違う時間枠を計るのに違う時計が必要なら,その境界はどこにあるのだろうか?ここでまた,3秒という時間が登場する。時間の評価のしかたが変わるはっきりとした境界は,3.2秒から4.6秒のあいだであることが,実験によって実証されている。

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.70

ウェーバーの法則

ウェーバーの法則によれば,判断の間違いはその量に比例して増える。つまり数メートル単位で距離を推定するときのほうが,数キロメートル単位で推定するより誤差は少ない。これと同じことが時間にも起こるため,私たちが頭の中で,ある一定の時間を計っているとき,時間を距離としてとらえているという考えを,デンマークの心理学者スティーン・ラーセンが提唱している。地理的な距離を考えているときと同じように,考えている時間が長くなるにつれて,小さな違いには気づきにくくなる。ウェーバーの法則はどんな動物にも,どんなものを評価するときにもあてはまる。だから赤ん坊に厚紙2枚の大きさを比較させるテストを受けさせても,ハトが種をつついて食べるときにくちばしを動かすタイミングを調べても同じだ。これはサイズを計る能力が,時間知覚のカギを握っている可能性があることを示唆している。

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.68

オッドボール効果

ここで私が7つの音を順番に出していくと想像してみてほしい。7つのうち3つは同じだが,真ん中の音だけは違う。たとえば「ド,ド,ド,ソ,ド,ド,ド」というように。音の長さがすべて同じでも,あなたはきっと「ソ」だけ長いように感じるだろう。同じように,画面に写真を次々と映し出していく。「キリン,キリン,キリン,マンゴー,キリン,キリン,キリン」と,それぞれまったく同じ長さで出したとしても,マンゴーのほうが長く映っていたと思うはずだ。マンゴーを見ている間,時間の流れが遅くなるような気がするのだ。これは変わり者(オッドボール)効果として知られていて,私たちが何度も繰り返す,時間計測に関する錯誤である。テスト自体は単純だが,頭の中の時計がどのように働いているかヒントを与えてくれる。

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.65

クロノスタシス

また心理学の文献では,集中力,すなわち“注意”にも言及されることがある。もし針がなめらかに動く最近の時計ではなく,昔のアナログ時計を持っていたら,何が起こっているか見てみてほしい。そろそろかと思ってもなかなか針が動かず,故障かと思った直後にまた針が動き始めたように感じた経験はないだろうか。これが“クロノスタシス”である。時間が止まっているような錯覚だ。最初はうまくいかなくても,何度か見ているうちにうまくいくようになる。この錯覚についてはこれまで「世界は時計を見るたびにぶれたりするものではない,一貫したものであるというイメージをつくるために,私たちが目を動かすたび,脳が瞬間的に視界を抑制するから起こる」と説明されてきた。その結果,人生が途切れなく進む映画のようにみえるのだ。この一瞬の抑制された視界を埋め合わせるため,部屋にあるほとんどの物体が静止していると思いこむのは筋がとおっている。アナログ時計の針の動きが,私たちの脳をだましているのだ。少なくともそれがこの現象を説明する理屈だ。この説明の問題点は,同じような錯覚が他の感覚でも起こるということだ。同様の現象は,電話の発信音が断続的なビープ音である国で起こる。タイミングによって,音が途切れている時間がとても長く感じ,電話が壊れているのではないかと感じるときがある。

クラウディア・ハモンド 度会圭子(訳) (2014). 脳の中の時間旅行:なぜ時間はワープするのか インターシフト pp.43

扁桃体と前頭前野

心に浮かんだ考えや映像にラベルを貼るだけで,前頭前野の抑制中枢を活性化させ,それによって扁桃体の反応をしずめることができる。デューク大学の神経科学者アフマド・ハリーリーは,脳スキャナーに横になった11人の健康な被験者に,2枚1組であらわれるたくさんの画像を見せ,その間の脳の状態を調べた。画像はたとえばヘビとこちらを向いた銃などで1組になっており,被験者はそのどちらかを,もうひとつ別にあらわれる画像とペアにするよう求められる。被験者は必然的に,画像の認識に集中していなくてはならない。画像はどれもすべて恐怖を感じさせる内容なので,課題をこなすうちに被験者の恐怖の中枢が作動し,警戒モードに入るはずだ。
 ハリーリーはもうひとつ,より興味深い内容の実験を行った。今度は画像と画像をペアにするのではなく,画像と同時にあらわれるふたつの言葉のうち,画像が「自然」のものか「人工」のものか,正しくあらわすほうを選びとらなくてはいけない(サメ,クモ,ヘビなどの画像なら「自然」を,銃,ナイフ,爆発などの画像なら「人工」を選ぶことになる)。この作業で被験者に求められるのは,画像を感情的にではなく,言語的に解釈することだ。
 実験の結果,脳の活性化パターンはふたつのケースで大きく異なることがわかった。研究チームの予想通り,前者の<ペアづくり>の課題のときには扁桃体に強い反応があらわれたが,後者の<ラベルづけ>の課題のときには,前頭前野が強く活性化し,それとともに扁桃体の反応が抑制されるという,たいへん興味深い結果が出た。<ラベルづけ>の作業で前頭前野の反応が強まり,それが扁桃体の反応を弱めることにつながったわけだ。
 これらの反応パターンは次のことを示唆している。前頭前野と扁桃体との相互作用のシステムは,現在の経験を意識的に評価することによって,感情をコントロールしたり方向づけたりするのを助けている。うなり声をあげている犬など何かの危険に直面したとき人は,脳内のパニックボタンである扁桃体の指令だけに従うのではなく,前頭前野の助けを借りて,たとえば「その場から逃げられるかどうか」を考え,脅威の度合いを推し量っているものだ。そうすることで,脳内の<石器時代>の領域にある扁桃体の活動を抑制できる。恐怖に対する感情の反応を制御するうえで,この,前頭前野と扁桃体との回路は非常に重要な役目を果たす。不安症やパニック障害,恐怖症,PTSDや抑うつ症などさまざまな心の失調が起きるのは,レイニーブレインの根底にるこの回路が機能不全になるせいなのだ。

エレーヌ・フォックス 森内薫(訳) (2014). 脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋 pp.260-262

「あの邪魔なトリ以外は」

マイケル・トマセロは,ドイツ・ライプチヒにあるマックス・プランク研究所に所属する霊長類学の第一人者であり,私の仲の良い友人でもある。彼は,言語などの人間の高度な認知機能がどのように進化したのかを解明する研究に取り組んでいる。彼が学会などで発表するとき,話しの終わり方がいつもおかしいので,私たち友人は楽しみにしている。彼の理論的な立場は,ほかの多くの心理学者もそうであるように,高度な認知機能は霊長類だけで進化したものだとする考え方だ。そして,彼は発表の結論でもたいてい「すべての研究データはこの考え方を裏付ける」との旨のことを断言する。しかし,その直後には“お手上げ”というジェスチャーをしながら「あの邪魔なトリ以外は」と付け加えるのだ。もちろん,アレックスのことだ。

アイリーン・M・ペパーバーグ 佐柳信男(訳) (2010). アレックスと私 幻冬舎 pp.253

パワーとスタミナ

この実験によって自己コントロールには2種類の強さがあるという重大な事実が明らかになった。それは「パワー」と「スタミナ」だ。最初の実験では,被験者にまずバネ式のハンドグリップをできるだけ長く握っているよう指示した(これは別の実験で,体力だけでなく意志力を測るにも適していることが示されている)。そして古典的な「シロクマのことを考えるな」テストで精神的エネルギーを消費したあと,再びハンドグリップを握るテストを行なった。2週間後,姿勢に気をつけて生活していた被験者を再び集めて同じ実験を行なったところ,最初のハンドグリップをできるだけ長く握っているテストの成績はそれほど向上していなかった。つまり意志力の筋肉が強化されたわけではなかった。しかし消耗したあとのテストでは成績が向上し,スタミナがはるかに増加していたことが実証された。姿勢を正すエクササイズのおかげで,学生たちの意志力が以前ほど速く消耗することはなく,そのため他の作業もできるスタミナが残っていたのだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.170-171
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

判定の負担

判定は精神的に負担の多い作業だ。判事が次々と決定を下していたとき,脳と体は(先述したとおり)意志力にとって重要な成分であるグルコースを消耗する。個人的にどんな信念を持っていようと——犯罪には厳しい措置を求めることで知られている,あるいは更生の可能性を重視するなど——それ以上の決定を行なう精神的エネルギーがほとんど残っていなかったのだ。そのため彼らは(自分にとって)リスクの少ない選択に傾いたと思われる。受刑者からすれば「判事がおやつを食べる前に審議を受けたからといって,なぜ刑務所にいる時間が増えるのか」と,ひどく不公平に感じるかもしれないが,このようなバイアスは他でもよく見られる。あらゆる状況で当たり前のように起こっているのだ。意志力と決定の結びつきは双方向のものだ。何かを決定すると意志力は消耗する。意志力が消耗すると,決定ができなくなる。あなたが1日中,難しい決断をする仕事をしているなら,ある時点で疲れ始め,エネルギーを温存する策を探し始める。たとえば決定を避ける,あるいは延期するといった方法が考えられるが,最も容易で安全なのは現状を維持することだろう。受刑者は刑務所に入れたままにしておくのだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.131-132
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

計画を立てろ!

つまりザイガルニック効果は,それまで何十年も考えられていたように,ある作業が終わるまで,それを思い出すよう仕向けるものではなかった。未完成の作業をときどき思い出すのは,無意識の脳が仕事を忘れていないことを示すシグナルではない。また仕事をすぐに終わらせろと,意識的な脳に小言を言っているわけでもない。無意識が意識的な脳に計画を立てるよう求めているのだ。無意識の脳は独力ではそれができないらしく,意識的な脳にしつこく迫って,時間,場所,機会など,細かい計画を立ててもらう。計画が決まると無意識な脳は迫るのをやめる。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.114
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

計画の細かさ

目標に到達するには,どれくらい細かな計画をたてるべきなのだろうか?ある入念に設定された実験で,勉強の技術を向上させるプログラムに大学生を参加させた。時間の有効な使い方についての一般的な指示をしたあと,条件の違う3つのグループに分ける。第1グループは毎日,何を,いつ,どこで勉強するか細かく計画を立てる。第2グループは毎日ではなく,月ごとに同様の計画を立てる。そして第3グループは対照群で,何も計画を立てずに勉強する。
 実験者は,毎日計画を立てたグループが一番よい結果が出るはずだと予測した。しかしそれは間違いだった。月ごとの計画を立てたグループが,勉強の習慣を身につけるという点でも,勉強への姿勢という意味でも,一番成長が見られたのだ。成績がよくない学生(もとから成績のよい学生ではなく)の間でも,月ごとの計画を立てた学生たちのほうが毎日の計画を立てたグループより,はるかに成績が伸びた。そして実験が終わったあとも,その習慣が続く確率が高かった。実験が終わって1年後,どちらのグループの学生も計画を立てるのはやめていたが,月ごとの計画を立てた学生たちのほうが,毎日の計画を立てた学生よりもよい成績をとっていた。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.99
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

GI値と自己コントロール

自己コントロール能力を一定に保つためには,GI値の低い食べ物を食べた方がいい。ほとんどの種類の野菜,ナッツ類(ピーナッツやカシューナッツなど),生の果物(リンゴやブルーベリーや梨など),チーズ,魚,肉,オリーブオイルやその他の「体によい」油脂などがこれにあたる(GI値の低い食べ物は,肥満予防にもいいかもしれない)。正しい食事をすると効果があることは,PMSのある女性を対象にした実験で明らかになっていて,女性たちは健康な食事をするとPMSの症状が減ると報告している。矯正施設で何千人もの10代の女の子を対象に行われた一連の実験でも,健康な食事の効果を示すことに成功している。施設で出す砂糖が入った食べ物と精製された炭水化物の食品のいくつかを,果物,野菜,全粒粉のパンなどに変えたところ,脱走や暴力などの問題行動の件数が急減したのだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.82-83
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

甘いモノがほしい

自己コントロールを発揮してグルコースを消費すると,体は甘いものを強く欲する——これは甘いものを控えようと考える人にとっては悪いニュースだ。ふだんの生活でも,自分をコントロールしなければならないときほど,甘いものへの欲求が強くなる。どんな食べ物でもいいからたくさん食べたいという単純な話ではなくて,とりわけ甘いものへの欲求が強くなるようだ。実験でも自己コントロールが必要な課題を行なった学生たちは,課題前よりも甘いお菓子を多く食べるようになるが,甘くない(塩味の)スナックを多く食べるようにはならない。自己コントロールが必要になりそうだと考えるだけでも,人は甘いものが欲しくなるようだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.72
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

グルコースなくして

グルコースなくして意志力なしというわけだ。被験者と条件を変えて同様の実験が繰り返されているが,そのたびにグルコースと意志力との間には関係があるという結果が出ている。犬を対象にした実験も行われたほどだ。人間は文化的な動物になる過程で自己コントロールの能力を幅広い物事に対応できるように発展させてきており,そういった意味ではとても人間的な性質と言えるかもしれない。しかしそれは人間の専売特許というわけではない。人間以外の社会的な動物も,お互いにうまくやっていくためには,ある程度の自己コントロールが必要になる。犬は人間と暮らしているため,多くの場面で,たとえば客の股の匂いをかいではいけない(少なくとも人間の股は)というような,犬から見るとばかげた気まぐれなルールに従って行動することを覚えなければならない。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.69
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

意志力

意志力を使用することがらは,大きく分けて4つのカテゴリーに分類できる。1つは思考のコントロールだ。思考をコントロールしようとしてもうまくいかないことがある。たとえば何か深刻なことを無視したいとか(「消えてしまえ!忌まわしい染み!」),頭の中でぐるぐる回る歌詞のフレーズを追い払いたいとか(「アイ・ガッチュー・ベイブ,アイ・ガッチュー・ベイブ」)。それでも後でお話しするように,集中する方法を身につけることはできる。強い動機がある場合にはなおさらだ。
 そもそも人は完璧な答えや最善の方法を探すかわりに,あらかじめ決められた答えで間に合わせて意志力を温存することが多い。神学者やキリスト教信者の場合は,信仰上の譲れない主義を貫くために余計なものを視野に入れないで生きる。売り上げナンバーワンのセールスマンの多くは,一番先に自分をだますことで成功してきた。サブプライムローン担当の銀行員は,信用度の低いNINA(No Income, No Assets:収入資産証明なし)層の顧客に,住宅ローンを融資しても何の問題もないと自分に言い聞かせていた。タイガー・ウッズは,一夫一婦制のルールなど自分には関係ないし,なぜか世界的に有名な選手のお遊びに気づく人はいないと自分を納得させていた。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.52-53
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

成功に必要なこと

人間は200万年前に大きな脳が発達したおかげで,分別を備えることができた。人が行なっている自己コントロールの多くは無意識のものだ。ビジネスランチの場では,特に意識しなくても,上司の皿から肉を食べないよう自制する。無意識の脳が社会的な大失敗をしないよう常に手助けしてくれているのだ。その働きは多岐にわたり,巧妙で強力なため,無意識の脳こそが本当の支配者だと考える心理学者もいる。無意識で起こるこの働きがもてはやされるようになったのは,研究者による基本的な誤りが原因だった。彼らは分析する行動の単位をどんどん細切れにして,意識が司るには早すぎる反応ばかりを同定していた。ある行動の要因をミリ秒(1000分の1秒)単位の時間枠で考えれば,行動の直接的な原因は,脳と筋肉とをつなぐ神経細胞の発火ということになる。その過程に意識はまったく関係していないし,神経細胞が発火したことに気づく人もいない。意志の働きはもっと長い時間の流れの中で見えてくるものだ。これは現在の状況を全体的な(長い目で見た)パターンの一部として考えることと関わっている。たばこを1本吸うくらいで健康を損ねはしない。ヘロインを1度使ったくらいでは中毒にならない。ケーキを1個食べるくらいでは太らないし,仕事を1度くらいさぼってもキャリアに傷はつかない。しかし健康を保ち,仕事を失わないでいるためには,これらの(ほぼ)すべての場面を,誘惑に勝つのに必要な一歩ととらえなければならない。意識による自己コントロールはこのような場合に働く。だからこそ人生のあらゆる場面で,成功するか否かを左右するのだ。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.27
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

自己コントロール

その評価を行ったのがバウマイスターで,彼は1994年に出版された学術書『自制心の喪失』(彼の妻でケース・ウエスタン・リザーブ大学のフェロー教授ダイアン・タイス,ハーバード大学の教授トッド・ヘザートンとの共著)で,それを発表した。この本では「自己調節の失敗こそが,現代における主要な社会病理である」と結論づけられ,それが高い離婚率や家庭内暴力や犯罪,その他の問題の一因となった多くの例が挙げられている。この本に刺激されてさらに実験や研究が行われ,性格検査における自己コントロール能力測定のための尺度も考案された。研究者らが大学生の成績と,30を超える性格特性項目とを比較したところ,各学生の成績評価点の平均値を,偶然よりも高い確率で予測できる特性は,自己コントロール能力だけだとわかった。自己コントロール能力は学生の成績を予測する方法として,IQやSATのスコアより優れていることも証明された。いわゆる生の知性(ローインテリジェンス;問題解決能力や明晰な思考など)も明らかにプラスになるが,自己コントロールはそれよりも重要だった。自分をコントロールできる生徒は授業への出席率も高く,早めに宿題に着手し,よく勉強する一方で,テレビを見る時間は短かった。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.21-22
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

自己認識をもつ動物

自己認識は,動物が時間と空間という視点を得て,仲間やそのほかの存在を意識していくうちに,自然に生まれてきたもののように思われる。この能力が,何らかの利益をもたらすためのものなのか,あるいは脳が発達する際に生じた副作用にすぎないのかはわからない。だがともかく,いったん獲得されると,私たち自身の複雑な情報伝達システムに組み込まれることになった。こうして私たちは,自らの行動と倫理観がどのような結果をもたらすかを自覚できる動物になったのである。

クライブ・フィンレイソン 上原直子(訳) (2013). そして最後にヒトが残った 白楊社 pp.287
(Finlayson, C. (2009). The Humans Who Went Extinct: Why Neanderthals Died Out and We Survived. Oxford: Oxford University Press.)

脳の進化

人類の脳はどうやって発達してきたのか——この疑問に対しては,これまでさまざまな主張がなされてきた。そのうちのひとつに,脳と知能は,変化に富んだ環境に暮らし,広大な領域を動き回る必要があるときに発達するというものがある。そうした環境では,広い範囲に分散している餌場を見つけ何度も通うために,時間と空間の概念を備えた4次元の地図を頭の中にもたねばならず,それに応じて脳が発達するというのだ(本書ではこれを地図作成仮説と呼ぶことにする)。
 このほかに脳と知能が発達した理由として考えられているものに,社会的圧力がある。大規模な集団では,構成員がそれぞれの意思をもっており,互いに関係を築くなかで緊張やストレスが生み出される。そうした環境で起こりうる多様な状況に対処するために,大きな脳が必要だったというのだ。この考えを社会脳仮説(またはマキャベリ的知性仮説)と呼ぶが,それに従えば,さまざまな要素からなる社会集団で生きる必要性こそが,大きくて複雑な脳への進化を最も的確に説明していることになる。
 近年では,地図作成仮説よりも社会脳仮説のほうが優勢のようだが,2つのあいだにそれほど違いがあるのだろうか?私にはそう思えない。どちらの場合も,予測不可能な環境(前者では地勢,後者では集団内の他者)に対処するための究極の方法だという点では変わらないからだ。

クライブ・フィンレイソン 上原直子(訳) (2013). そして最後にヒトが残った 白楊社 pp.274
(Finlayson, C. (2009). The Humans Who Went Extinct: Why Neanderthals Died Out and We Survived. Oxford: Oxford University Press.)

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