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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「パーソナリティ・個人差」の記事一覧

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7つの決定的勝因

わたしはその能力を「7つの決定的勝因」と名づけた。サイコパシーの7つの中核原理で,配分を間違えずにしかるべき配慮と注意を払って使えば,自分の望みどおりのものを手に入れるのに役立つ。現代生活の難題にただ反作用するのではなく対処するのに役立つ。未来の自分を犠牲者ではなく勝利者に変えることができる——卑劣な手を使わずに,だ。

1. 非情さ
2. 魅力
3. 一点集中力
4. 精神の強靭さ
5. 恐怖心の欠如
6. マインドフルネス
7. 行動力

 明らかに,これらの能力が効力を発揮できるかどうかは使いかた次第だ。当然ながら,どの特質がより必要かは状況に応じて変わってくる。同時に,同じ特質でも,状況によって,例のミキシングコンソールのたとえを使えば,出力を上げたり下げたりする必要が出てくるだろう。たとえば非情さ,精神の強靭さ,行動力の出力を上げれば,あなたは自信を増し,同僚からの評価も上がるかもしれない。しかし上げすぎれば,暴君と化すおそれがある。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.259-260
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先延ばししない

「プロの殺人者,たとえば死刑執行人は,たぶん人の命を奪っても何も感じないかもしれない。おそらく良心の呵責や後悔の念が入り込むことはない。トレーダーの場合も似たようなものだ。取引が完了することを仲間内では『執行』という。よく使われる業界用語だ。取引が執行されたら,非常に優秀なトレーダー——きみが興味を持っているような連中は,平気でさっさと帰っていく。なぜとかどこへとか,賛成とか反対とか,正しいか間違っているかなんてことは,これっぽっちも考えない。
 しかもそれは,さっきの話に戻れば,取引の出来不出来とはいっさい関係ない。大儲けしようとすっからかんになろうと関係なしだ。取引を終えるのは冷静かつ客観的な意思決定であって,なんらかの感情だの,心理的な影響だのを伴ったりはしない……。
 プロとして大成するには,株式市場にかぎらず,ある種の切り替えが必要だと思う。目の前の仕事だけに集中できる能力。そのp仕事が終わったら,さっさと立ち去ってきれいさっぱり忘れてしまう能力だ」
 もちろん,過去に生きるというのは対立項のひとつにすぎない。未来に生きること,「先走りすること」,想像力の暴走を許すこと——わたしが「強化コンクリート」とやらの下でやってしまったように——も,同じくらい能力を奪う。たとえば,意思決定の機能不全に関連して認知的・情動的1点集中を調べた結果,ふつうの日常的な行動——プールに飛び込む,電話の受話器を取る,悪い知らせを伝えるなど——では,こうなるかもしれないという「想像」のほうが,「現実」よりもはるかにわたしたちを惑わせることがわかった。
 わたしたちが何かと先延ばしにしたがるのはそのせいだ。
 一方,サイコパスは決して先延ばしにはしない。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.256-257

外科医も

もちろん,サイコパスが他人の感情に敏感だということ,そして言うまでもなく,この章の前半で触れたように,じつは感情を偽るのがうまいことも合わせると,彼らが人並み以上の説得力をもち,ごまかしの達人であることをいくらか説明できるかもしれない。しかし「冷たい」知覚的共感と「熱い」感情的共感を切り離すことには,ほかにもメリットがある——なかでも特筆すべきは感情を入り込ませてはいけない職業,たとえば医療関係の仕事だ。
 イギリス屈指のある神経外科医は,手術に臨む際の気持ちを次のように語った。
 「大きな手術の前は緊張するかって?いや,そんなことはない。どんなパフォーマンスも同じじゃないかな。気持ちを高めなきゃならない。今やるべきことに集中して,余計なことは考えないことだ。失敗は許されない。
 さっき,特殊部隊の話をしてくれただろう。じつを言うと,外科医の精神状態はこれからビルだか旅客機だかに突っ込もうっていう精鋭部隊の兵士にかなり似てるんじゃないかと思う。どちらも『仕事』のことをオペレーションと呼ぶ。どちらも『武装』してマスクをつける。そしてどちらも,どんなに長いこと経験と鍛錬を積んだって,最初に切り込むときの例の不確定要素ってやつに完璧に備えができているなんてことはありえない。あの刺激的な『危険な侵入』の瞬間,皮膚をめくったとたん……もう始まってるんだ。
 頭部を狙って銃撃する際の1ミリの誤差と,重要な2本の血管を傷つけないように進むときの1ミリの誤差と,重要2本の血管を傷つけないように進むときの1ミリの誤差の違いは何か。どちらの場合も,自分が生死を握っていて,死か栄光かの決断をくださなくてはならないってことだ。外科手術の場合はメスの刃先にかかっている」

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.170-171

目的のために

録音テープの筆記録をコンピューター解析した結果,サイコパス的な殺人犯のほうが証言のなかで「だから」「ので」「ため」といった接続詞を使う頻度が高く,特定の目的を達成するために殺人を「せざるをえなかった」というふくみがあることがわかった。興味深いことに,犯行当日に何を食べたかをくわしく語りがちでもあった——原始的な狩りの名残りだろうか。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.167

感情を偽るのがうまい

ポーターが知ろうとしたのは,サイコパス度の高い被験者のほうがサイコパス度の低い被験者に比べて,感情を偽るのがうまいかどうかだった。答えは明らかにイエスだった。サイコパス的特質があるかどうかによって,嘘の反応に見られる感情の矛盾の度合いも大きくなったり,小さくなったりした。サイコパスのほうがそうでない被験者に比べて,ハッピーな写真を見て悲しそうなふりをしたり,悲しげな写真を見て楽しそうなふりをするのが明らかにうまかったのだ(興味深いことに,ポーターの学生のひとりであるサブリナ・ディミトリオフは,サイコパスのほうが他人のわずかな表情を読み取るのが得意であるという逆パターンの発見もしている)。それだけでなく,サイコパスは情動的知能指数(EQ)が高い被験者にも負けていなかった。だれかが言ったように,誠実そうに見せかけることができたら……向かうところ敵なしだろう。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.161-162

犯罪への影響

サイコパシーが厳密にはどのように犯罪者をより優秀にするのかについては,議論の余地がある。たとえば,サイコパスはプレッシャーのもとでも冷静さを失わない達人で,そのことが逃走用の車や取調室で有利に働く可能性は十分ある。その反面,非情でもあり,目撃者を脅迫して証人として名乗り出ないようにさせる可能性もある。それでも同じくらい可能性があるのは——かつ同じくらいスパイにも詐欺師にもぴったりなのが——非情で怖いもの知らずのうえに,もうひとつ,より高度な心理的才能を備えていることだ。世界トップクラスのポーカープレーヤー顔負けに,もうあとがないというとき,自分の感情を人並み以上にうまくコントロールできる。そうした才能が強みになるのは,法廷の外で不埒な計略や活動を思いめぐらし実行に移す際だけではない。法廷のなかでもものをいう。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.159-160

経営者のサイコパシー

ロバート・ヘアらの2010年の研究もそれを裏づける。ヘアはサイコパシーチェックリスト改訂版(PCL-R)を全米の200人を超える企業経営陣に配布し,企業幹部と世間一般でのサイコパス的特性の割合を比較した。その結果,経営陣のほうがサイコパシー度が高かっただけでなく,カリスマ性やプレゼンテーションのスタイル——独創性,いい意味での戦略的思考,すばらしいコミュニケーションスキル——についての社内の評価も,明らかに高かった。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.152

ジェームズ・ボンド

こうした疑問をいだいて答えを探しはじめた人間に,心理学者のピーター・ジョナソンがいる。2010年,ジョナソン(当時はニューメキシコ州立大学に勤務)と同僚たちは「ジェームズ・ボンドは何者か——闇の三位一体と工作員的社交スタイル」と題する論文を発表した。それによれば,特有の人格的特徴の三位一体(ナルシシズムの特徴である人並はずれたうぬぼれの強さ。サイコパシーの特徴である恐怖心の欠如,非情さ,衝動性,スリルの追求。マキャベリズムの特徴である不実さと,人を食いものにすること)を備えた男性は,じつは社会の一定の階層では独力で大成功できる。しかも,そうした特徴の度合いが低い男性に比べて,性的な関係にある相手の数が多く,行きずりの短い関係を好む傾向が強い。闇の三位一体は相手が男性ならハンデになるが,相手が女性なら,かえって心拍数を増加させ,遺伝子の増殖の可能性を増大させるかもしれない,とジョナソンは主張する。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.147-148

犯罪の世界かビジネスの世界か

ニューマンは,サイコパスが犯罪の世界の外でも一般人と共存しているという見解にも大賛成だ。サイコパス的人格をつくり上げている要素に疎い人々にとっては意外かもしれないが,外科医,弁護士,企業トップなどの職業で非常に成功していることが多い。「リスク回避の低さと罪悪感や良心の呵責の欠如という,サイコパシーの二大要素の組み合わせは」ニューマンによれば「状況次第で犯罪の世界かビジネスの世界での成功につながる可能性がある。両方の世界で成功することだってある」。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.101-102

ビッグファイブとパーソナリティ障害

その証拠に,ソールズマンとペイジは,とくに精神的苦痛を特徴とする人格障害(妄想性,統合失調症性,境界性,回避性,依存性)は神経症傾向と非常に関連があり,対人関係での問題を特徴とするもの(妄想性,統合失調症性,反社会性,境界性,自己愛性)は,当然ながら,協調性に影響することに気づいた。それに比べれば結びつきは弱いものの,外向性と誠実性も関連していた。社交家と世捨て人の分水嶺とでもいうべきものをはさんで,一方の側にある障害(演技性と自己愛性)は外向性の得点が高く,もう一方の側(統合失調症質と統合失調型と回避性)は外向性の得点が低かった。同様に,暴走族と支配魔の分水嶺をはさんで,一方の側(反社会性と境界性)と反対側(強迫性)でも,誠実性で得点の二極化が見られた。
 これはかなり説得力がある。人格という太陽系を構成しているのが万能のビッグファイブだとしたら,人格障害というはみ出し者の星座も天空の一角にあるはずだ。それにしても,サイコパスはいったいその天空のどこに位置するのだろうか。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.77-78

ビッグファイブ・パーソナリティ

経験に対する開放性(知性)は,独創的な考えや情動的知能(EI)が何より大切な職業——コンサルタント,調停員,広告業といった職種——で役に立つことがわかっている。一方,この項目の得点が低い人は,製造や機械関係の仕事で成功する傾向がある。誠実性の得点が(高すぎれば執着,強迫観念,完全主義に陥ってしまうが)中程度以上の人はあらゆる職種で抜きんでる傾向があり,中程度以下の場合はその逆のことが言える。外向的な人は社交性が求められる仕事で成功し,内向的な人はグラフィックデザイナーや会計士など,より「孤独」もしくは「内省的」な職業で成功する。協調性の得点が高い人も,かなり広範囲の職種で成果を上げられるが,とくに能力を発揮できるのは看護や軍隊など,顧客サービスやチームワークが重視される職種だ。ただし誠実性と違って,得点が低くてもかえって都合のいい場合がある。熾烈で非情な業界——エゴが衝突し,リソース(アイディア,特ダネ,受信料や購読料など)をめぐる激しい争奪戦が繰り広げられることも多いメディアなどだ。
 最後は神経症的傾向だが,これはNEOの5つの次元のうち,最も不安定かもしれない。とはいえ,情緒が安定していてプレッシャーにさらされても冷静でいられることは,集中力と冷静さがものをいう職業(パイロットや外科医など)では間違いなく重要だ。神経症的傾向と独創性が分かちがたく結びついていることも忘れてはいけない。昔から芸術や文学の傑作のなかには,脳の浅瀬ではなく魂の奥深くにある未知の迷宮から掘り出されたものがある。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.71-72

妥当性に欠ける検査

インターネット上に次のようなクイズが出回っている。ある女が母親の葬儀で見知らぬ男と出会う。女はなぜかその男に惹かれる。この男が自分の運命の人だと確信し,たちまち恋に落ちる。しかし電話番号は尋ねずじまいで,葬儀が終わったあとは探しようがない。数日後,女は自分の妹を殺す。いったい,なぜ?
 答える前に少し考えてみよう。どうやら,この簡単なクイズで,あなたがサイコパス的な思考の持ち主かどうかがわかるらしい。女が妹の命を奪う動機はなんだろう。嫉妬?その後,男と妹が同じベッドにいるのを目撃したのか。復讐?どちらもありそうな話だが,正解ではない。あなたがサイコパス的思考の持ち主だとしたら,次のように答えるはずだ。妹が死ねば,葬儀に再び男が現れるかもしれないから。
 あなたの頭に浮かんだのが,同じ答だったとしたら……うろたえないことだ。じつを言うと,わたしは嘘をついた。そう考えたからといって,もちろん,サイコパス的思考の持ち主というわけではない。この噂もネットに出回っている多くの情報と同じで,胡散臭いことこのうえない。たしかに女のやり口は一見サイコパス的で,その点については異論はない。冷酷で残忍で非情,自分のことしか考えていない短絡的な行動だ。ただし,ひとつ問題がある。標準的な臨床プロセスを踏んで適切に診断された正真正銘のサイコパス——レイプ犯,殺人犯,小児性愛者,武装強盗——に同じクイズをやらせてみたら,どんな結果が出たか,わかるだろうか。「妹が死ねば,もう一度葬儀ができるから」と答えた人間はひとりもいなかった。ほとんど全員が「恋愛関係のもつれ」が動機だと答えた。
 「おれは正気じゃないかもしれない」とテストを受けたサイコパスのひとりはコメントしている。「だけど,ばかじゃないぜ」

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.63-64

気にしない

彼の言うとおりだ。おそらくサイコパスの際立った特徴,サイコパス的人格を大部分の「正常」な人たちの人格と区別している究極の,「決定的」な特徴は,サイコパスが他人からどう思われようとまったく気にしないことだ。自分の行為を世間がどう考えるか,少しも意に介さない。今ではイメージやブランディングや評判がこれまでにないほど神聖なものになっていて,ゆくゆくはフェイスブックを5億人が利用する時代,Youtubeに2億件の動画が投稿される時代,イギリスで20人にひとりの割合で監視カメラが設置される時代になるかもしれない。そんな世の中では,こうした無頓着さは間違いなく,サイコパスが非常に多くのトラブルに巻き込まれる根本的原因のひとつになっている。
 それはもちろん,わたしたちがサイコパスに惹かれる理由でもある。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.59

コブラとピットブル

ジェイコブソンとゴットマンは,よく引用される虐待者の分類で,このタイプの心理的プロファイルを「コブラ」と呼んでいる。コブラはもうひとつのタイプである「ピットブル」(闘犬用犬種)と違って,素早く,かつ激しく攻撃し,つねに冷静さを失わない。自分はやりたいときにやりたいことができるという誇大妄想をもっている。そのうえ,コブラという名前からうかがえるように,落ちついて狙いを定めてから攻撃にかかる。一方,ピットブルは感情の揺れがより激しく,感情が激しやすい——そのため,かっとなりやすい。両者をさらに比較すると興味深い。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.53

企業リーダーの場合

2005年,サリー大学のベリンダ・ボードとカタリナ・フリッツォンは,企業のリーダーには厳密にどんな資質が必要かを突き止めるべく調査を実施した。人格のどんな側面が,飛行機に搭乗するときにファーストクラスのほうへ向かう人とエコノミークラスのほうへ向かう人を分けるのか。
 ボードとフリッツォンは3つのグループ——企業経営者,精神疾患の患者,入院中の犯罪者(サイコパスとそれ以外の精神疾患の患者の両方)——を対象に,心理的プロファイリングテストの結果を比較した。
 分析の結果,いくつかのサイコパス特性——表面的な魅力,自己中心性,説得力,共感の欠如,独立心,一点集中力——はじつは「精神障害のある」犯罪者よりも企業のリーダーのほうによく見られ,両者の主な違いは「反社会的」な側面にあった。犯罪者のほうが違法行為,身体的攻撃,衝動性の「調整つまみ」が高い位置に設定されていたのだ。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.47

功利主義とサイコパシー

それを突き止めるべく,バーテルズとピサロは200人を超える学生にトロッコの問題を提示し,大柄の男を突き落とすという選択肢をどの程度支持するか——どの程度「功利主義」か——を4段階で自己申告させた。それからトロッコの問題に加えて,学生に潜在的サイコパシー度を測るためのさまざまな検査を受けさせた。「殴り合いのけんかが見たい」「人を操るには相手が聞きたがっていることを言うのがいちばんだ」といった設問だ(そう思う/思わないを10段階で回答)。
 サイコパシーと功利主義というふたつの概念を結びつけられるだろうか,とバーテルズとピサロは考えた。答えは明らかにイエスだった。ふたりの分析の結果,トロッコの問題に対する功利主義のアプローチ(大柄の男を橋から突き落とす)と,サイコパシー傾向が非常に強い人格とのあいだには重要な相関関係があった。ロビン・ダンバーの予測からすれば,かなり的を射ている結果だが,功利主義に対する従来の見解では,いくぶん問題がある。功利主義の理論を定式化したとされる18〜19世紀イギリスの哲学者ジェレミー・ベンサムとジョン・ステュアート・ミルは,だいたいにおいて,善良な人物と思われている。
 「最大多数の最大幸福はモラルと立法の基礎である」とベンサムが明確に表現したことは有名だ。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.45-46

タカ派戦士

バージニアコモンウェルス大学の臨床心理学の名誉教授であるケント・ベイリーは後者のゲーム理論説を支持し,さらに進めて,近い祖先集団の内部や集団間の暴力的な競争が,サイコパシー(ベイリーの言う「タカ派戦士」)の進化の先駆けだったと主張する。
 ベイリーによれば,「ある程度の捕食性の暴力」が「大型獣の狩りにおいて,獲物を探し出してしとめるという側面では必要だった」のではないか——そしておそらくは,無慈悲な「タカ派戦士」のエリート集団は,獲物を追跡してしとめる戦力としてだけでなく,近隣の他集団からの侵略をはねつける防衛軍としても好都合だったのかもしれない。
 もちろん問題は,タカ派戦士を平時に信用できるかどうかだった。 オックスフォード大学の心理学および進化人類学教授であるロビン・ダンバーもベイリーの説を支持している。ダンバーは9世紀から11世紀にかけての古代スカンジナビア人の「猛戦士(ベルセルク)」を引き合いに出す。ベルセルクはサーガや詩や史料によれば,英雄視されるバイキングの戦士で,残忍な,怒りに我を忘れた状態で戦ったらしい。だがもう少し掘り下げてみれば,より不吉な図が浮かび上がってくる。本来は守らなければならないはずの共同体のメンバーに牙を剥き,同胞に対する野蛮な暴力行為に走る危険なエリートたちの図だ。

ケヴィン・ダットン 小林由香利(訳) (2013). サイコパス 秘められた能力 NHK出版 pp.38

単発性と多発性

人間には単発性の者と多発性の者とがいる。単発型人間は,一つのことだけをその都度,着手したり終えたりすると,仕事がはかどる。こういう人間は音楽を聴きながら読むことはできないし,ある小説を中断して他の小説を読むことができない。そんなことをすれば,話の筋道を見失ってしまうからだ。極端な場合には,ひげをそったり,化粧したりしている間は,質問に答えることもできない。
 多発型人間は全く逆である。こういう人間はさまざまな関心が一度に進行した場合に初めて,仕事がはかどる。そして,一つのことだけに没頭すると,退屈さに打ちのめされて,しょげ返る。単発型人間はよりきちょうめんだが,往々,空想力に乏しいことがある。多発型人間はより創造的だが,往々ずぼらで,気まぐれなことがある。しかし,偉人たちの伝記を調べにかかると,多発型の者も単発型の者もいたことが分かるであろう。

ウンベルト・エコ 谷口 勇(訳) (1991). 論文作法—調査・研究・執筆の技術と手順— 而立書房 pp.130

自転車乗り反応

支配的な階級制における行動面の反応の中には,差別と偏見という最もたちの悪い特徴もある。人間以外の霊長類では,支配的な階級制のもとでの地位を巡る闘いに負けた個体は,往々にして自分より下位の個体への攻撃を仕掛ける。
 こうした現象はドイツ語でRadfahrer-Reaktion(自転車乗り反応)として知られている。つまり闘いに負けると,上位の者には頭を下げつつ,下位の者は蹴りつけるということである。この言葉は元々はテオドール・アドルノ(Theodor Adorno)の「権威主義的パーソナリティ」(1950年)に由来する。この本はナチスのユダヤ人に対する扱いを説明しようと試みたものである。我々の知るところでは,経済がうまく行っていないと,攻撃を受けやすい少数派への差別が増え,極端なナショナリウムが台頭する。失業率が高いとき,その影響を被っている人は,少数派の民俗や宗教に対して自分たちの優位を主張することで,自我や地位,自尊心を取り戻そうとするだろう。そしてアメリカでは,収入の格差が大きい州ほど人種に対する偏見が大きく,女性に対しての政治的・経済的差別も大きい。それと同様に,自尊心を傷つけられた男ほど妻に暴力を振るいがちである。潜在するパターンが最もはっきりと現われるのはおそらく,性犯罪者に対し仲間の囚人が見せる残忍な行ないだろう。これらの極端な例は,はじめは優位性や排他性をちらっと示すことから,果ては公然と暴力を振るうことや人種差別までの,途切れることのない支配行動の一部分でしかない。どんなレヴェルにおいても階級制は,他者を受け入れるよりは排除するという性質を持っていることが特徴である。だから不平等が拡大すれば社会関係の質も自ずと劣化するのである。

リチャード・ウィルキンソン 竹内久美子(訳) (2004). 寿命を決める社会のオキテ—シリーズ「進化論の現在」— 新潮社 pp.115-116

MBTI

数年にわたるMBTI実施の結果,イーロンの学生には一定の特徴があることがわかった(MBTIでは,内向型/外向型,感覚型/直感型,思考型/感情型,受容型/判断型の4つの基準から16の性格傾向を分析する)。リッチによると「イーロンの学生の多くは,図書館で静かに勉強するよりも,体験をつうじて感覚的に学んでいくことを得意とすることがわかった」とのことだった。「一番多いのはENFPタイプ(外向/直感/感情/受容)で,2番目はESTJ(外向/感覚/思考/判断)でした。この結果はうれしかったです。私自身もENFPですから」。
 リッチはさらに,ENFPタイプは,統一テスト等ではあまりいい結果を残せない一方,読書や実験を通じて学ぶのと同じぐらい,クラスメイトとの協同学習や学外研修,インターンシップ,実際の生活体験,課外活動などから学び,成長するのが得意であることを指摘した。しかし多くのイーロンの教員は,他の大学でもそうであるように,INTJタイプ,つまり内向的で思考を好む傾向があった。つまり彼らの多くは本の虫で,実際の生活体験よりも理論を好み,行動するよりも思索に耽っていたいタイプなのである。イーロンには,つまり,頭でっかちの教員と活力に満ちた学生の間に大きなギャップがあることが判明したのである。


ジョージ・ケラー 堀江未来(監訳) (2013). 無名大学を優良大学にする力:ある大学の変革物語 学文社 pp.20-21

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